この事例の依頼主
40代 男性
依頼者(40代男性・会社役員)は、長年にわたり勤務先の会社の経理を担当していましたが、個人的な投資の失敗や遊興費の捻出のため、数年間にわたって会社の資金を不正に引き出し、私的に流用していました。その総額は約6000万円にものぼっていました。会社の内部監査によって不正が発覚し、依頼者は経営陣から事実確認と説明を求められました。経営陣は強い憤りを示しており、「到底許されることではない。警察に刑事告訴する。」と明言していました。業務上横領罪、特に被害額が6000万円という巨額であることから、刑事告訴されれば逮捕・起訴は免れず、実刑判決(長期の懲役刑)となる可能性が極めて高い状況でした。依頼者は自身の犯した罪の重大さを認識し、深い後悔と絶望感に打ちひしがれていました。しかし、何よりも刑事事件化(逮捕や前科)だけは避けたい、家族にこれ以上迷惑をかけられないとの思いから、会社側が警察に相談する前に示談で解決できないか一縷の望みを託し、当事務所に駆け込んできました。
事態が切迫しており、一刻の猶予もない状況でした。刑事処罰を回避するためには、会社側が警察に被害届や告訴状を提出する前に、迅速かつ誠実に被害弁償を行い、示談を成立させる以外に道はないと判断しました。当事務所では直ちに以下の活動を開始しました。・被害弁償資金の確保: 依頼者に対し、親族からの借入れや資産の売却など、あらゆる手段を講じてでも、被害額全額(6000万円)を即座に準備する必要があることを強く説明しました。幸い、依頼者は親族の協力を得て、短期間で全額を準備する目途を立てることができました。・会社側との交渉: 弁護士は依頼者の代理人として、直ちに会社の顧問弁護士と面談の機会を設けました。席上、依頼者が自身の行為を深く反省し、心から謝罪していること、そして被害額全額を速やかに一括で弁償する用意があることを伝えました。・示談条件の協議: 会社側は当初、被害額の大きさと裏切られたことへの怒りから強硬な姿勢でしたが、弁護士は、①刑事事件化した場合、会社側にも捜査協力や評判リスク等の負担が生じる可能性があること、②何よりもまず被害回復(6000万円の即時回収)を実現することが会社にとって最も合理的であること、③依頼者が深く反省し退職を予定していることなどを丁寧に説明し、交渉を続けました。交渉の結果、会社側は最終的に、「被害額全額の即時弁済」と「依頼者の即時退職」などを条件に、刑事告訴や被害届の提出はしないという内容での示談(和解)に応じる意向を示しました。当事務所において速やかに示談書を作成し、被害弁償も完了させました。結果、依頼者は逮捕・起訴されることなく、刑事事件化そのものを回避することができました。依頼者は会社を退職しましたが、最も恐れていた実刑判決と前科を免れることができました。
業務上横領罪は、会社との信頼関係を裏切る悪質な犯罪であり、特に被害額が数千万円単位にのぼる場合、発覚すれば通常は逮捕・起訴され、実刑判決となる可能性が非常に高い犯罪です。本件のように、警察沙汰になる前に解決できた最大の要因は、「刑事事件化される前に、迅速に、被害額全額の弁償を行い、被害者(会社)との間で示談を成立させられたこと」に尽きます。一度、被害届や告訴状が警察に提出されてしまうと、たとえ後から全額弁償したとしても、捜査を止めることはできず不起訴処分を獲得することも容易ではありません。このような事案では、時間との勝負です。会社に不正を知られた、あるいは知られそうだという状況になったら、一刻も早く弁護士に相談することが重要です。弁護士は、依頼者の代理人として冷静に会社側と交渉し、被害弁償の意思と謝罪の気持ちを伝え、刑事事件化を回避するための示談成立に向けて全力を尽くします。被害弁償の資金を準備できるかという点が大きなハードルとなりますが、可能性がある限り、諦めずに最善の方法を探ることが重要です。横領・着服などの問題でお悩みの方は、事態が深刻化する前に、できる限り早くご相談ください。